液体層の精密厚さ制御を備えた透過型液体セルによる軟X線吸収分光測定法の開発

2 keV以下の軟X線領域には、Li, B, C, N, Oなどの軽元素のK吸収端とTi, Mn, Fe, Co, Ni, Cuなどの3d遷移金属のL吸収端が存在するため、溶液の化学現象の研究にとって重要である。しかしながら、軟X線は大気や液体に強く吸収されるため、液体試料の軟X線吸収分光(XAS)測定を実現するには、液体層の厚さを 1 μm以下にする必要があり、非常に困難であった。

我々は2010年から分子科学研究所UVSORにおいて、XAS測定のための透過型液体セルを開発してきた[1]。詳細は過去の論文で報告したが[2]、図1に我々が開発した液体セルの模式図を示す。液体セル中の液体層は、窓サイズ2 × 2 mm2で100 nm厚の2枚のSi3N4 (SiC)膜で挟むことで構成している。SiC膜はN K吸収端のXAS測定に用いる。液体セルは常圧のヘリウム環境下にあり、超高真空下の軟X線ビームラインとは、窓サイズ0.2 × 0.2 mm2のSi3N4膜で分けている。シリンジポンプを使って、液体試料を入れ替えることができる。チラーシステムにより、試料温度は−5 ~ 80 °Cの範囲で制御できる。液体セルの周りのヘリウムの圧力を調整することで、液体層の厚さを20 nm ~ 40 μmの範囲で精密に制御できる。これにより、希薄な溶液では液体層を厚くできるので、幅広い濃度領域で軟X線吸収量を最適化して、広い濃度領域のXAS測定を実現した。図1に示すように、液体層の精密厚さ制御法により、異なる厚さの液体水のO K吸収端XASスペクトルが得られた。

図1. XAS測定のための透過型液体セルの模式図。液体層は2枚のSi3N4膜で挟むことで構成して、液体セルの周りのヘリウムの圧力を制御することで、液体層の厚さを20 nm ~ 40 μmの範囲で精密に制御できる。液体層の厚さを変えた液体水のO K吸収端XASスペクトルも示す。

  1. M. Nagasaka et al., J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom. 177, 130 (2010).
  2. M. Nagasaka et al., J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom. 224, 93 (2018).

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