時間分解XAS測定は、溶液中の金属錯体の光励起過程を調べるうえで有効な方法である。図1に示すように、レーザーパルスと軟X線パルスを同期することで時間分解XAS測定を行った。KEK-PFの軟X線ビームラインBL-13Aにおいて、ハイブリッドモード運転中の45 ps幅の軟X線パルスを用いた。レーザーパルス(515 nm, 290 fs)はYb:KGWレーザーの二次高調波を用いた。中心に穴を開けたアルミミラーを用いて、軟X線パルスとほとんど同軸でレーザーパルスを液体セルに導いた。液体セルは大気圧ヘリウム環境下にあり、超高真空下のビームラインと検出器槽とSiC膜で分離している。透過軟X線をアバランシェフォトダイオード検出器で収量することで、XASスペクトルを測定した。レーザー光が検出器に入らないように、アルミフィルターを用いた。

図2(a)に基底状態とレーザー照射後60 ps後の光励起状態の[Fe(phen)3]2+水溶液のN K吸収端XASスペクトルを示す。金属錯体の配位子のC=N π*ピークは、低スピン状態から光励起により高スピン状態になると、低エネルギーシフトする。図2(b)に、レーザーパルスに対する軟X線パルスの遅延時間を変えることにより得た、398.97 eVの軟X線吸収量の時間発展を示す。N K吸収端XAS測定では、[Fe(phen)3]2+錯体が高スピン状態から基底状態に緩和する過程の時定数は550 psとなり、Fe K吸収端で得られた時定数(690 ps)に近いことが分かった。
