XAS測定の高分子溶液への適用

溶液中の高分子のXAS測定を行った。ポリイソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)は、純水と純メタノールには溶けるが、メタノール水溶液には溶けなくなる、共貧性溶媒効果を示すことが知られている。本研究では、O K吸収端XAS測定により、メタノール水溶液中のPNIPAMの共貧性溶媒効果のメカニズムを調べた[1]。図1に25 °Cのメタノール水溶液中のPNIPAMのO K吸収端XAS測定で求めた、PNIPAMのC=O π*ピークのエネルギーシフトのメタノールのモル比率依存性を示す。メタノールが豊富な濃度領域では、C=O π*ピークは水の割合が増えるほど、緩やかな高エネルギーシフトを示す。一方、純水ではC=O π*ピークが、純メタノールのときよりも大きく高エネルギー側にシフトしていることが分かった。これは、巨視的には水とメタノールに同じように溶けてみえるPNIPAMが、分子レベルでは異なった描像を示していることを表す。

図1. O K吸収端XAS測定で得られた、メタノール水溶液中のPNIPAMのC=O π*ピークのエネルギーシフトのメタノールのモル比率依存性。

溶液中のPNIPAMのO K吸収端の内殻励起スペクトルを得るために、分子動力学計算で得られた40-mer PNIPAMの分子配置から、終端に水素原子を付加した5-mer PNIPAMと共に、溶媒である水分子とメタノール分子を第二配位圏まで抽出した[2]。図2に示すように、9700個の抽出した高分子構造の内殻励起スペクトルの重ね合わせから、メタノール水溶液中のPNIPAMの内殻励起スペクトルを得た。得られた計算結果はO K吸収端XAS測定の結果を良く再現していて、PNIPAMのC=O π*ピークのエネルギーシフトから、高分子鎖の構造変化、C=O基へのメタノール分子から水分子への水素結合の交換、C=O基への水分子の配位数の増加を詳細に評価できることが分かった。

図2. 分子動力学計算で求めた異なる濃度(x = 1.0, 0.8, 0.0)のメタノール水溶液中の40-mer PNIPAMの構造から抽出した、溶媒分子を含む5-mer PNIPAMのO K吸収端の内殻励起スペクトル。
  1. M. Nagasaka et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 26, 13634 (2024).
  2. M. Nagasaka et al., J. Chem. Phys. 162, 054901 (2025).

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