ポルフィリン環のN K吸収端XAS測定により、水溶液中で室温における、代表的なヘムタンパク質であるミオグロビンのスピン状態を調べた[1]。図1に異なる状態のミオグロビンのN K吸収端XASスペクトルを示す。オキシミオグロビン(oxyMb)のヘムは、中心金属がFe2+イオンで酸素分子が結合した六配位錯体になる。デオキシミオグロビン(deoxyMb)のヘムは、中心金属がFe2+イオンの五配位錯体になる。メトミオグロビン(metMb)のヘムは、中心金属がFe3+イオンで水分子が結合した六配位錯体になる。ポリペプチド鎖に含まれる窒素原子に帰属されるピークが401.4 eVに観測された。ウシ血清アルブミン(BSA)はヘムを含まないため、ポルフィリン環のC=N π*ピークのエネルギー領域にピークが存在しない。一方、oxyMb, deoxyMb, metMbでは、ヘムのポルフィリン環由来のC=N π*ピークが400.0 eV付近に存在していて、ポリペプチド鎖のピークと分離して観測できることを発見した。

図2に示すように、内殻励起計算と比較することで、ポルフィリン環のC=N π*ピークから、ヘムのスピン状態を求めた。oxyMbは一つのC=N π*ピークで構成されていて、低スピン状態(S = 0)になる。deoxyMbとmetMbは2つのC=N π*ピークで構成されることが分かった。deoxyMbはS = 2とS = 1のスピン平衡になる。低エネルギー側のC=N π*ピークの強度が高エネルギー側のピークよりも大きいことから、deoxyMbではS = 1と比較して、S = 2のスピン状態の方が多いことが分かった。metMbはS = 5/2とS = 3/2のスピン平衡になる。高エネルギー側のC=N π*ピークの強度が低エネルギー側のピークよりも大きいことから、metMbではS = 5/2と比較して、S = 3/2のスピン状態の方が多いことが分かった。ポルフィリン環のC=N π*ピークは、ヘムの金属-配位子間の非局在化により、そのスピン状態を反映することが確かめられた。室温の水溶液中のdeoxyMbとmetMbのスピン平衡状態は、温度、溶媒の配位、ポリペプチド鎖との相互作用などの様々な要因により成り立つため、ヘムタンパク質が機能を発現する状態でのN K吸収端XAS測定が有用であることが示された。
